コロラド州事情
1 概観
(1) 歴史・沿革
現在のコロラド州(State of Colorado)の地域には数千年前より様々な部族のネイティブ・アメリカンが住んでおり、紀元700年頃にはプエブロ族が居住していた。 ヨーロッパ人が最初に訪れたのは16世紀半ばで、1700年頃にはスペイン商人が商業活動を始めていた。州名は、赤褐色の土砂で赤くなった川をスペイン語でリオ・コロラド(「赤い川」の意)と呼んだことに由来する。
米国領としては、1803年にロッキー山脈の東側の部分がルイジアナ買収の一部としてフランスから買い入れられた。1806年には米国人による初めての実地調査が行われ、ゼビュロン・M・パイクに率いられた調査隊はコロラド・スプリングスの北部及び西部に広がる山脈を踏破した。パイクの名はパイクスピーク山の名となって残っている。ロッキー山脈西側の半分は、米墨戦争の結果、1848年にメキシコから割譲された。
同年、加州で金鉱が発見されると、一攫千金を狙った人々が加州を目指して続々と移動したが、1850年、ジョージア州のチェロキー族のラルストン・グループが、加州への通過地点に過ぎなかった現在のデンバー市内北部で砂金を発見した。デンバー市内にある記念碑は、これをコロラド州における金発見第一号として、「ここより1マイル北で、コロラド州で初めて金が発見された」と記している。しかしこの時点では金鉱の発見に至らなかった。その後、加州のゴールドラッシュ(1849年がピーク)の熱が冷めた1858年、加州帰りでチェロキー族の血を引く探鉱者ウィリアム・グリーンベリー・ラッセルがデンバー市西部で、純金に換算して622グラムの金を発見した。これが引き金となって探鉱が盛んになり、セントラル・シティ、アイダホ・スプリングス、クリプル・クリーク等、デンバー市よりはるか西の山麓地帯の数箇所で金鉱が発見された。1859年にはクリプル・クリーク金鉱でゴールドラッシュ(通称:パイクスピーク・ゴールドラッシュ)となった。
コロラド州の繁栄の基礎はこれで築かれ、その後、産業の中心は農業・畜産業へと移行していく。コロラド州は、米国独立の100年後の1876年に38番目の州として合衆国に加わり、このためセンテニアル・ステイト(独立100周年記念州)の愛称がある。
(2) 地誌
ア 地理
コロラド州は、ほぼ西半分が米国西部山岳地帯、東半分が大平原地帯に位置し、南北で約450km、東西で約600kmの長方形をなしており、その面積は26万9千km2で全米50州中第8位の広さ(日本の総面積の約7割)である。
コロラド州を南北に走るロッキー山脈は、全米に約80ある4,200m級の山々の内50余座を占める大陸分水嶺であり、東へ向かう河川は大平原を流れ大西洋(メキシコ湾)に注ぎ、西への流れはコロラド台地を通り太平洋へと向かっている。コロラド州の最高地点はエルバート山頂(4,398m)、最低地点は アーカンザス川のカンザス州の境界地点(約1,000m)で、平均標高は全米各州の中で一番高い。
イ 気候
気温は地域にもよるが、州都デンバーの平均で以下の通り。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最高気温(℃) | 8 | 9 | 13 | 17 | 22 | 27 | 31 | 30 | 26 | 19 | 12 | 8 |
最低気温(℃) | -9 | -8 | -4 | 1 | 5 | 10 | 13 | 12 | 7 | 1 | -5 | -9 |
年間降水量/203~381mm 年間晴天日数/約300日
ウ 人口
2023年の国勢調査(推定)によると、コロラド州の人口は約587,7万人で、現時点での最新の人口構成は、白人86%、ヒスパニック系22.7%、アフリカ系4.8%、ネイティブ・アメリカ1.7%、アジア系3.8%である。デンバー市をはじめとする主要都市は、ロッキー山脈東側に南北方向に延びるフロント・レンジと呼ばれる地帯に位置しており、人口の80%がこの地域に集中している。また、その約65%がデンバー市を中心とする大都市圏に集中している。
コロラド州の主要都市の人口(2023年国勢調査(推定))は以下の通りである。
【コロラド州の主要都市の人口(2023年国勢調査(推定))】 | |
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デンバー都市圏 | 約323.6万人 |
デンバー市(州都) | 約71.6万人 |
コロラド・スプリングス市 | 約48.8万人 |
エ その他
【コロラド州の花・鳥・木・動物】 | |
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州花 | ソライロオダマキ (Rocky Mountain Columbine) |
州鳥 | カタシロクロシトド (Lark Bunting) |
州木 | コロラドトウヒ (Colorado Blue Spruce) |
州の動物 | オオツノヒツジ (Rocky Mountain Bighorn Sheep) |
2 政治
(1) 政治情勢概況
コロラド州は自由、保守の傾向が強い西部州という印象があったが、戦後の歴史で見る限り、大統領選挙における支持、州知事、連邦議員及び州議会議員ポストに占める割合は、民主・共和両党がほぼ互角であり、コロラド州が「振り子州」と呼ばれていた所以である。農村部及び軍基地を抱える地域では保守色が強く、州都デンバー市及びコロラド大学のあるボルダー市では、リベラル色が強いという地域差はあるが、有権者登録で見る党派別支持の割合は、長年、二大政党で分かち合ってきており、この二大政党間の力の平衡がコロラド州の政治を特徴付けていた。2016年の大統領選挙においても、両候補による接戦が直前まで続いた。
しかし、過去3回の大統領選挙においては、民主党が連続して勝利しており、政治のリベラル化が進んだ。その要因としては、1990年代から続いている人口増加(特にヒスパニック系や若年層人口の流入)による人口動態の変化及び無党派層の増加(全有権者の4割を占める)があると言われている。
コロラド州レベルでは、知事、議会上下院のすべてが一つの党でまとまることを嫌う伝統があったが、2012年以降、民主党が知事、州の上下両院議会で多数を占める状況となった。しかし、2014年の中間選挙では、全国的な共和党旋風に乗り、数年ぶりに共和党が州上院多数を奪還した他、州の要職においても共和党候補者が当選を果たし、「振り子州」としての様相を改めて見せる結果となった。2018年中間選挙では、民主党が勢いを伸ばし、州知事選や接戦が予想されていた連邦下院コロラド6区で民主党が勝利し、同州上下両院議会においても民主党が過半数を制した。2020年の選挙においても連邦上院2議席分が民主党、連邦下院7議席中4議席が民主党となり、民主党の勢いが強まっている。また、2020年の国勢調査で、コロラド州の人口が増加したため、連邦下院コロラド8区がデンバー市北部エリアに増設されることが決定し、2022年の中間選挙で8区が新たに加わり、接戦の末に民主党候補が勝利した。2024年の選挙で8区は、連邦下院の議席数を左右するとして全米から注目されており、現職民主党議員が再選を目指していたが、共和党候補に敗れた。
(2) 連邦議員
ア 連邦上院議員(2議席)
1995~2004年は共和党による2議席独占、2004~08年は共和党と民主党が議席を分け合い、2008~14年は、民主党による2議席独占となった。2014年の中間選挙においては、共和党の有力若手議員のコーリー・ガードナー連邦下院議員が連邦上院議員選挙に出馬し、共和党優位の流れに乗り、現職で民主党のマーク・ユーダル議員に勝利したことで、民主党のマイケル・ベネット連邦上院議員と2議席を分け合うこととなった。2016年の選挙で、マイケル・ベネット連邦上院議員が再選した。2020年の選挙では、当時現職で共和党のコーリー・ガードナー連邦上院議員が再選を目指したが、コロラド州内における民主党の勢いが強まり、コロラド州知事を務めた民主党のジョン・ヒッケンルーパー知事が勝利し、2議席共に民主党が独占することになった。2022年の選挙で、マイケル・ベネット連邦上院議員が3期目再選を果たした。
【連邦上院議員】 | |
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ジョン・ヒッケンルーパー(John Hickenlooper)(民) | 2026年改選 |
マイケル・ベネット(Michael Bennet)(民) | 2028年改選 |
イ 連邦下院議員(8議席)
1992年まで民主、共和両党で3議席ずつ分け合う形が続いてきたが(当時は6議席)、1992年の選挙で共和党が4議席を占めて以来、共和党4議席、民主党2議席の態勢が続いた。2002年の選挙からコロラド州は1議席増となったが、共和党が新7区で勝利し、共和党5議席、民主党2議席となった。
2004年以降は民主党躍進の時代となり共和党の現職議員を破り、一時は全7議席中5議席を民主党が占めた。その揺り戻しが2010年の選挙で起こり、連邦下院第3区及び連邦下院第4区(いずれも農村部)で議席は共和党に戻り、その後、共和党4議席、民主党3議席の状態が継続している。2018年の連邦下院選コロラド6区にて、ベテラン共和党議員が新人民主党議員に敗れており、民主党4議席、共和党3議席と逆転した。2020年の連邦下院選コロラド3区では、当時現職で共和党のスコット・ティプトン連邦下院議員が再選を目指していたが、トランプ前大統領を支持する新人候補で銃擁護派の共和党ローレン・ボーバート候補に予備選挙で敗れ、全米で注目を集めた。しかし、議席としては民主党4議席、共和党3議席と変更はなかった。2022年の選挙から8区が増設され、共和党が勝利し、民主党4議席、共和党4議席となった。
【連邦下院議員】 | |
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第1区 | ダイアナ・ディゲット(Diana DeGette) 民 |
第2区 | ジョー・ネグース(Joe Neguse)民 |
第3区 | ジェフ・ハード(Jeff Hurd)共 |
第4区 | ローレン・ホーバート(Lauren Boebert)共 |
第5区 | ジェフ・クランク(Jeff Crank)共 |
第6区 | ジェイソン・クロウ(Jason Crow)民 |
第7区 | ブリタニー・ペターセン(Britanney Pettersen) 民 |
第8区 | ゲイブ・エバンズ (Gabe Evans) 共 |
(3) 州議会と州政府
ア 州議会
州議会は、上院(定員35名)と下院(定員65名)より成る。近年における党派別勢力は以下のとおり。
- 2002年の選挙で共和党が上院で多数を奪回し、上下両院とも共和党優勢となる。
- 2004年の選挙では、上下両院とも民主党優勢に逆転した。
- 2006年の選挙では、民主党がさらに議席を伸ばした。
- 2008年の選挙では、多少の変動はあったものの、民主党優勢が続いた。
- 2013年に州上院の2議席がリコールされ共和党が獲得した。中間選挙前の2014年6月時点では民主党の多数はわずか1議席差となっていた。
- 2014年の選挙では、共和党が議席を伸ばし、約10年ぶりに州上院で多数を奪還した。州下院は民主党が多数となったため、ねじれ現象をもたらす結果となった。
- 2016年の選挙では、州上院で共和党が多数派を維持、州下院で民主党が議席を伸ばしたため、引き続きねじれ状態となった。
- 2018年の選挙では、州上院で民主党が多数派となり、州下院で民主党が更に議席を伸ばしたため、上下両院で民主党が多数派となった。
- 2020年の選挙においても引き続き上下両院で民主党が多数派を維持。
- 2022年の選挙においても上下両院で民主党が議席を更に増やし多数派を維持。
- 2024年の選挙でも上下両院で民主党が優勢だが、下院での民主党の超多数派は崩れた。下院で民主党が超多数派(2対1の配分)になるには1議席足りない状況となった。
【州上院】 | |
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民主党 | 23名 |
共和党 | 12名 |
計 | 35名 |
【州下院】 | |
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民主党 | 43名 |
共和党 | 22名 |
計 | 65名 |
イ 州政府の主要政策と課題
コロラド州は、従来の鉱業及び農業依存の経済からの脱却を図り、1980年代から情報通信、ハイテク、宇宙、バイオテクノロジー等の技術分野に熱心に取り組む一方で、州の自然を活かした観光(国立公園、スキー、狩猟、釣魚)にも官民挙げて力を入れてきた。特に、ハイテク関係ではシリコン・バレーからの人材の流入もあり、研究開発が盛んで「シリコン・マウンテン」とも呼ばれる。1995年にデンバー国際空港が開業すると、大量の観光客を呼び込み、さらにコロラド州が地理的に米国のほぼ中心にあることもあり、人的交流・物流の拠点として重要性を増し、コロラド州は高度経済成長を遂げた。
2000年になると米国全体の経済が減速気味となり、コロラド州経済も停滞し始め、州財政に影響が出るようになった。そのため州の支出に制限を設けた納税者憲章(Tax Payer's Bill of Rights: TABOR、予算は前年度の実質支出に人口増加とインフレのみ反映させた額を上限とし、余剰は納税者に返還する)が大きな足枷となっていると認識され、2005年から5年間に限り停止する措置が取られた。現在TABORの存続・撤廃に関し、議論が継続されているが撤廃はされていない。
また、2014年1月から嗜好用マリファナが合法化され販売が始まった。2015年の売上合計は約10億ドル、2016年は約13億ドルと、年々売り上げは増加しており、2020年には最高となる約22億ドルを記録し、また先般の石油・ガス掘削ブームに乗って、州経済も徐々に上向きとなったが、開発を進める石油・ガス会社と、石油・ガス採掘の環境への懸念を抱く環境団体との対立により、フラッキングの規制に関する議論が活発化している。また、近年の石油価格の低迷や世界経済の低迷による需要減により、コロラド州における石油産業関連の雇用数は伸び悩んでいる。
ウ 州知事選挙
2010年の選挙は、序盤では共和党候補が有利であったが、スキャンダルと人選ミスが重なって共和党内が分裂し、最終的には民主党の勝利となり、ビジネスマンの経歴を持つ前デンバー市長のヒッケンルーパー氏が知事となった。同知事は、2014年の選挙で共和党の元連邦下院議員のボブ・ボープレイズ候補に接戦の末、勝利を収め再選を果たした。2018年の選挙では、当時連邦下院議員(コロラド第2区)であったジャレッド・ポリス氏(民)と当時州財務長官であったウォーカー・ステイプルトン氏(共)が争い、ポリス氏が勝利し知事となった。2022年、ポリス知事は2期目再選を果たした。
【コロラド州公選職】 | |
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知事(Governor) | ジャレッド・ポリス(Jared Polis)民 |
副知事(Lt. Governor) | ダイアン・プリマベラ(Dianne Primavera)民 |
州務長官(Sec. of State) | ジーナ・グリスウォルド(Jena Griswold)共 |
州司法長官(Attorney General) | フィル・ウェイザー(Phil Weiser)民 |
州財務長官(Treasurer) | デーブ・ヤング(Dave Young) 民 |
エ その他
主要都市の市長は次の通り。
【主要都市の市長】 | |
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デンバー市(州都) | マイク・ジョンストン(Mike Johnston) |
コロラド・スプリングス市 | イェミ・モボレード(Yemi Mobolade) |
オーロラ市 | マイク・コフマン(Mike Coffman) |
3 経済及び産業
(1)経済概況
コロラド州都デンバー市を中心とするデンバー都市圏の主要経済は中心部から郊外の広大な農耕地域に至るまで、農業・畜産業、工業・製造業、建設業、流通産業、ハイテク産業などがあり、1990年代に入り、多くの軽工業の発展と観光資源を活かした観光産業にも力を入れ、経済の多様化を図っている。雄大なロッキー山脈、素晴らしいスキー場、大西部といったイメージのコロラド州は、最近ではこうした自然に加え、「シリコン・マウンテン」と呼ばれるほどハイテク産業や研究開発活動が盛んな地域である。コロラドは米国内最後のフロンティア地域とも言われ、経済は、最近は全米的な公共の影響を受け、失業率が低く(2024年10月4.1%、全米平均同様。)、治安も比較的安定している。一般的に教育水準も高く、また、対日認識は友好的である。コロラド州は歴史的には冷戦体制下の軍関連施設の拠点として成長しているため通信関連、航空・宇宙産業をはじめとする高度な技術、人材が集積されている地域である。これに交通の利便性、住環境の良さなども加わり、過去10年間でシリコンバレー等からの移住が増え、人口は2023年の時点で推定約587.7万人になった。このうち約325万人が州の労働力を担っており(出典:米労働省)、コロラド州は、2022年に大学の学位を持った成人の人口の割合は30.58%である。2023年の一人あたりの個人所得は79.586米ドル(全米第6位)であった。
(2)主要産業
ア 農業・畜産
第一次産業は開拓時代から培われてきた。約280万頭の畜牛がおり、コロラドは全米で第10位の牛の飼育州となっている。現在、農業生産品は牛、小麦、乳製品、トウモロコシ及び干し草である。1906年以来、毎年1月にデンバー市のコロシアムで「ストックショー」が開催され、家畜の競売、ロデオ、品評会などが行われる。
イ 航空宇宙産業
コロラド州は、カリフォルニア州に次いで2番目に大きな航空宇宙産業経済(同産業雇用数で評価)を有する。コロラド州には、空軍宇宙(SPACECOM)、北米航空宇宙防衛軍(NORAD)、北方軍(NORTHCOM)等の軍司令部が存在し、航空宇宙産業の戦略的な場所となっている。コロラド州に宇宙産業が集積した理由として、地政学的に恵まれた立地条件、アメリカ本土のほぼ中心に位置していること、政府の技術研究施設が多数あること、地元の大学が高学歴の人材を育成していること、生活の質が良いこと等があげられる。さらにコロラド州政府がハイテク産業を支援していることも大きな要素となっている。また、毎年4月中旬、コロラドスプリングス市においてスペースシンポジウムが開催されている。
ウ エネルギー鉱業・天然資源
コロラド州は全米における鉱業の中枢地域でもあり、長年鉱物採取及び石油産業により成り立ってきた。主な鉱物資源は、石炭、金、鉛、石膏、石灰石、銀、モリブデン、チタン、ウラン、亜鉛、大理石などである。太陽光、風力などの再生可能エネルギー産業も盛んで、コロラド州政府は、2040年までに州内の総発電量の100%を再生可能エネルギーからまかなうことを目標にしている。また、コロラド州には、国立再生可能エネルギー研究所(NREL)がある。
エ テクノロジー・情報産業
コロラド州には、大手ケーブルTV会社、携帯電話会社の他、ソフトウェアやコンピューター・システムに携わる企業が起業する良い環境にある。企業規模及び種類ともに多様であり、約7万人の雇用を生み出している。ボルダー市を中心にテック産業を支援するスタートアップ関連会社が多数あり、毎年9月にはデンバー市がスタートアップウィークを開催し、官民を上げてテクノロジー・情報産業を支援する体制が整っている。
オ 観光産業
コロラド州は、年間を通して特に冬は世界的にも有名なスキーリゾート(アスペンなど)、夏は国立公園(ロッキーマウンテン国立公園など)での多くのレクリエーション活動や素晴らしい景色が、世界中の観光客を魅了している。2023年の州内の国立公園の訪問者数は780万人であった。
カ 国際貿易
コロラド州の主要貿易相手国は、カナダ、メキシコ、中国、韓国、マレーシア、日本である。主要輸出品目は、食肉及び加工品、コンピューター・電子機器、機械類、化学製品、航空宇宙関連機器であり、輸出総額は約104億ドルであった(2023年)。
キ その他
今後コロラド州で期待される産業は、ヘルスケア、バイオテクノロジー、再生可能エネルギー、サイバー・セキュリティなど。対日関係は6の(3)を参照。
4 教育
コロラド州内公立学校(小中高校)の生徒数は、約88万1千人(2023-2024年の統計)で過去10年間で最低数となった。学校区が178の中規模の州である。
州の教育関連予算は、州議会で決定される。コロラド州の2024-2025年の教育関連予算は約97億ドル(その主な内訳は、州税51億ドル、車両登録税および地方固定資産税45億ドル)であった。
義務教育年齢は、州法で8月1日までに6歳となる子供から17歳以下の子供と定められている。なお、2023年における公立高校の卒業率は83.1%。過去10年間、上昇の傾向にある。
高等教育機関としては、同州で最も長い伝統を持つコロラド大学をはじめ、州立の4年制高等教育機関数が13校、デンバー大学等私立の高等教育機関が7校ある。また日本語への関心も高く、コロラド大学ボルダー校、コロラド州立大学等、7つ以上の大学が日本語及び日本関連講座を有しており、一部の公立中高等学校でも日本語教育が行われている。当地での日本語教育機関は国際交流基金の調査から検索できる。
5 治安情勢
コロラド州における2023年の主な犯罪の発生件数及び対前年比犯罪発生率は以下のとおり。
2022年(件数) | 2023年(件数) | 前年比 | |
---|---|---|---|
殺人 | 429 | 372 | -13.3% |
強姦 | 3,806 | 3,405 | -10.5% |
強盗 | 4,405 | 3,777 | -14.3% |
暴行 | 20,627 | 20,091 | -2.6% |
窃盗 | 115,627 | 107,095 | -7.4% |
自動車盗, | 46,107 | 37,955 | -17.7% |
(出典:FBI犯罪統計) |
6 日本との関係
(1)コロラド州における日系人の歴史
1886年に信州上田藩主次男の松平忠厚が日本人として初めてコロラドに移住して以来、日本人移民がコロラドに移り住むようになり、炭坑夫・鉄道工夫等として働いた。やがて日系移民は、州内各地で野菜、小麦、家畜飼料等の生産に従事するようになった。
日本軍による真珠湾攻撃の後、ルーズベルト大統領は太平洋沿岸地域の日系人を内陸へ移動させることを決定した。1942年4月、米国西部10州の代表がこれら日系人の受入れ先を協議するためユタ州ソルトレイクシティ市に会した際、躊躇することなく受入れを申し出たのはコロラド州のラルフ・カー知事(当時)のみであった。当初の案では内陸部に50から75の仮設収容所を作り、日系人が住居と職業を見つけるまでの避難所とする方向であったが、カー知事以外の出席者は受入れを快諾せず、結局武装兵士の監視のついた10ヵ所の半恒久的拘留所を設け、そこに収容することになった。コロラド州にもグラナダ収容所 (通称:アマチ収容所)が設けられ、最大時で約7,300人が収容された。2022年3月18日、アマチ収容所は国立史跡に指定された。また、毎年5月、アマチ収容所跡地において、第二次世界大戦中に同収容所で亡くなった120名及び同収容所から欧州戦線等に出征し死亡した31名の方々を追悼するために、追悼式が開催されている。
カー知事は、対日敵視が渦巻く中、人道主義と民主主義を貫き、日系米国人も憲法で保障された権利を、他の米国人と同様保障されると主張したが、受け入れられなかった。1942年、州知事を2期4年勤めたカー氏は連邦上院議員選挙に出馬したが、日系人への憎悪を公表して憚らない対立候補に、わずか3,600票余りの僅差で破れた。1999年12月、当地有力紙であるデンバー・ポスト紙が、カー元知事をコロラド州を代表する20世紀の人物として選んだことは、高い人権意識の表れとされるが、同時に当地社会の親日的な感情を示すものであるとも言える。
デンバー市内のサクラ・スクエアには、カー知事のゆるぎないアメリカ民主主義への信念を讃えて、記念の胸像が建てられている。またカー知事の偉業を記念して、2008年8月国道285号線の一部(C470とケノーシャ峠間の約240マイル)が「ラルフ・カー・メモリアル・ハイウェイ」と命名された。同国道は南カリフォルニアからの移住者がニューメキシコ州経由でコロラド州に入るときに辿った道で、カー知事は州境にミッションを送って移住者を迎えた。
現在のコロラド州における日系人の多くはデンバー都市圏に集中しており、多岐にわたる職業に従事している。2007年にコロラド日系人会は創立100周年を迎え、各種記念行事が実施された。また2008年には全米日系人博物館主催による1988年の「日系米国人補償法」(“Civil Liberties Act of 1988”)の制定20周年を記念する日系人の大会がデンバー市にて開催され、全米各地から日系人の代表が集まった。さらに、2014年には日米関係の強化への貢献を目的とする米日カウンシルのロッキーマウンテン支部が設立された。
(2)成田・デンバー間の直行便就航
2013年6月、ユナイテッド航空により成田・デンバー間の直行便が就航した。本直行便の運営状況は好調であり、我が国とコロラド州の関係の更なる発展に大きく寄与することが期待される。新型コロナウイルスの感染拡大により直行便の運航を一時休止していたが、2023年3月に復航した。
(3)文化交流
コロラド州の対日関心は高く、日本との学術・文化交流が活発である。コロラド州・山形県、デンバー市・高山市をはじめ州内10都市と日本の都市が姉妹都市関係を締結しており活発な交流が行われている。1989年デンバー市にコロラド日米協会が発足。また、1994年にはコロラド・スプリングス市にも南コロラド日米協会が設立された。
(4) 姉妹都市関係
コロラド州と山形県及び以下の諸都市が姉妹都市関係を締結し、活発な交流を行っている。
コロラド州の都市 | 日本の都市 | 姉妹都市締結年月日 |
---|---|---|
コロラド州 | 山形県 | 1986年12月2日 |
デンバー市 | 高山市(岐阜県) | 1960年7月29日 |
コロラド・スプリングス市 | 富士吉田市(山梨県) | 1962年3月16日 |
ロングモント市 | 茅野市(長野県) | 1990年5月25日 |
フリスコ町 | 西川町(山形県) | 1990年8月29日 |
アスペン市 | 占冠村(北海道) | 1991年8月29日 |
グリーリー市 | 守谷市(茨城県) | 1993年8月3日 |
キャニオンシティー市 | 河北町(山形県) | 1993年10月20日 |
ボルダー市 | 山形市(山形県) | 1994年4月22日 |
ブルームフィールド市 | 上田市(長野県) | 2001年8月18日 |
ベイル町 | 山之内町(長野県) | 2018年1月25日 |
(5)人物交流関係
コロラド州からはJETプログラムにより、毎年約50名の参加者を送り出している。また管轄4州より毎年1~2名が国費留学生として渡日している。
(6)投資・貿易
コロラド州に進出している日系企業は81社(2024年1月現在)である。進出企業の業種としては、商社、製造、エレクトロニクス、光学機器、エネルギーなど多様であり、特にハイテク企業が研究開発や販売の拠点を置いている例が多い。コロラド州デンバー市には日系進出企業によってロッキーマウンテン日系企業会(JBAR。旧コロラド日本企業懇話会)が組織されている。また、我が国は同州にとってカナダ、メキシコ、中国、韓国などに次ぐ第7位の輸出相手国(輸出額約2億3910万ドル:2024年)となっている。今後も日本企業のコロラド州の進出には、大きな期待が寄せられている。
(7)要人往来
ア 訪米
- 1981年 9月 常陸宮殿下・妃殿下(デンバー市)
- 1987年 7月 板垣清一郎山形県知事(コロラド州)
- 1994年 6月 天皇皇后両陛下(ロングモント市、デンバー市等)
- 1996年 6月 髙橋和雄山形県知事(コロラド州)
- 1997年 6月 橋本龍太郎総理大臣、池田行彦外務大臣、三塚博大蔵大臣、佐藤信二通産大臣(コロラド州:デンバーサミット)
- 2001年 9月 髙橋和雄山形県知事(コロラド州)
- 2005年 4月 石破茂前防衛大臣(アスペン市)
- 2005年 10月 萱沼俊夫富士吉田市長(コロラド・スプリングス市)
- 2006年 6月 尾身幸次衆議院議員(アスペン市)
- 2006年 9月 小沢一郎民主党代表(コロラド・スプリングス市)
- 2006年 7月 齋藤弘山形県知事(コロラド州)
- 2009年 3月 橋本聖子外務副大臣(コロラド州)
- 2015年 7月 國島芳明高山市市長(デンバー市)
- 2015年 8月 伊藤達也内閣府大臣補佐官(デンバー市等)
- 2015年 11月 冨岡文科副大臣(コロラド・スプリングス市)
- 2016年 7月 左藤章衆議院安全保障委員長一行(コロラド州)
- 2016年 8月 吉村美栄子山形県知事(コロラド州)
- 2016年 8月 阿部守一長野県知事(コロラド州)
- 2016年 9月 武井俊輔外務大臣政務官(コロラド州)
- 2018年 2月 薗浦健太郎総理大臣補佐官(コロラド州)
- 2018年 8月 大野防衛大臣政務官(コロラド州)
- 2019年 5月 佐藤外務副大臣(コロラド州)
イ 訪日
- 1966年 3月 トーマス・カリガン・デンバー市長(高山市他)
- 1985年 3月 フェデリコ・ペニア・デンバー市長(高山市他)
- 1986年 12月 ロイ・ローマー・コロラド州知事(山形県他)
- 1996年 6月 ウェリントン・ウェッブ・デンバー市長(高山市他)
- 1999年 11月 ビル・オーエンス・コロラド州知事(山形県他)
- 2003年 3月 ウェリントン・ウェッブ・デンバー市長(高山市他)
- 2008年 5月 ジョン・ヒッケンルーパー・デンバー市長(高山市他)
- 2008年 11月 ビル・リッター・コロラド州知事(山形県他)
- 2010年 3月 コロラド経済使節団(東京都他)
- 2011年 11月 マイケル・ハンコック・デンバー市長(東京都他)
- 2013年 6月 マイケル・ハンコック・デンバー市長(東京都他)
- 2015年 10月 ジョン・ヒッケンルーパー・コロラド州知事(東京都他)
- 2015年 11月 マイケル・ハンコック・デンバー市長(高山市他)
- 2018年 10月 マイケル・ハンコック・デンバー市長(東京都他)
- 2023年 3月 ジャレッド・ポリス・コロラド州知事(東京、大阪他)
- 2023年 3月 マイケル・ハンコック・デンバー市長(東京、高山市他)
(8) 在留邦人及び日系人
コロラド州に在留する邦人の数は約4,900人(2024年10月現在)。その多くは州都であるデンバー都市圏に居住しているが、コロラド・スプリングス市、ボルダー市等にも居住している。日系人(2000年の国勢調査に対し「日本人」または「日本人との混血」 と回答した人)の数は約1万9千人となっている。一般的に邦人社会と現地社会との関係は良好な状態に保たれている。また、デンバー都市圏には、日本語教育施設としてデンバー日本語補習学校、コロラド日本語学校補習学校及びロッキーズ日本語アカデミーがある。