ユタ州事情

令和6年12月13日

1 概観

(1) 歴史・沿革

19世紀初頭から、スペイン人探検家やニュー・メキシコの貿易商人等が西海岸への近道を探す過程でこの地を踏査し、その結果有名な貿易街道である「オールド・スパニッシュ・トレイル」が生まれた。この道は後に、開拓者がカリフォルニアやオレゴンに向かう際に役立ったと言われている。1847年に中西部における宗教上の対立から逃れ、ブリガム・ヤングに率いられ安住の地を求める末日聖徒イエス・キリスト教会(通称:モルモン教)教徒達がこの地に辿り着いた。彼らは1900年までにはユタ州及び周辺の州において約500の居住地を築くことになるが、ユタ州が45番目の合衆国の州として認められたのは1896年のことであった。現在も州人口の62%が同教徒といわれ、その総本山は州都であるソルトレイクシティ市にある。


ユタ(Utah)の語源については、この地域に居住していたネイティブ・アメリカンであるユート(Ute)族(「山の人」の意)に由来する説や、アパッチ族の言葉Yuttahih(「高いところの人々」)に由来する等の諸説がある。


また、ソルトレイクシティ市は2002年冬季オリンピックの開催地となった。ソルトレイクシティ市は、2034年冬季オリンピックの開催地に再び決定したため、2回目のオリンピックを迎えることになっている。


(2) 地誌

ア 地理

ユタ州は、米国西部ロッキー山脈の西側に位置し、面積は22万平方キロメートルで全米50州中11番目に広い。ユタ州北東部には、ロッキー山脈に連なる3,300m以上の山々がそびえており、州内の最高地点となる標高4,058mのキングスピークもこの山系に属している。州の中央部から西部にかけては標高1,200~1,500mのグレートベースンと呼ばれる大盆地が広がっている。グレートベースンは、西隣のネバダ州へさらにカリフォル二ア州東端シエラネバダ山脈に接するまで続いている。


グレートソルト湖は、ミシシッピ川以西で最大の湖で27%の塩分(海水の8倍)を含み、死海に次いで塩分の濃い湖である。グレートソルト湖の平均の深さは約4m、最深部で約10mである。


イ 気候

ソルトレイクシティ市の平均気温(摂氏)は1~2月が最高で5度、最低-4度、7~8月は最高34度、最低20度。年間降水量は平均で280mm。グレートソルト湖付近の乾燥地帯では200mm以下、山岳地帯では1,280mmを越える。


ウ 人口

2023年の国勢調査(推定)によると、ユタ州の人口は約341万人で、人口構成は白人89.8%、ヒスパニック系16%、アフリカ系1.6%、アメリカ・インディアン1.6%、アジア系2.9%、大洋州系1.2%である。


ユタ州の主要都市の人口(2023年の国勢調査(推定))は以下の通りである。


【ユタ州の主要都市の人口(2023年の国勢調査(推定))】
ソルトレイク市(州都) 約21万人
ウェストバレー市 約13万人
プロボ市 約11.4万人

エ その他


【ユタ州の花・鳥・木・動物】
州花 セゴユリ (Sego Lily)
州鳥 カリフォルニアカモメ (California Gull)
州木 ヤマナラシ (Quaking Aspen)
州の動物 ロッキー山脈ワピチ (Rocky Mountain Elk)

2 政治

(1) 政治情勢概況 

ユタ州は、州都ソルトレイクシティ市に末日聖徒イエス・キリスト教会(通称:モルモン教会)の総本山があり、同教徒が州民の約6割を占める宗教色の強い州である。知事及び連邦・州議会議員もほとんどが同教徒で占められるなど、政治面でも同教会とのつながりが強い。同教会は、勤勉を奨励し、飲酒・喫煙を禁じるなど質素で堅実な生活習慣を旨としており、こうした宗教的信条が州経済の繁栄を導いたとする誇りは揺るぎない。また、宗教的迫害の歴史から自主自衛の気風も強く、それは強硬な銃規制反対となって現れ、内部結束的な相互扶助の精神も強い。


ユタ州で保守色が顕著になり始めたのは、州民の生活が向上してきた1960年代であり、それ以前の1940年代までは大統領選挙で民主党が勝利していた。1940年代以降は議会における共和党の優位が増し、今日の圧倒的優位へと傾斜していった。このように政治・道徳では全米一といわれるほど保守色が強いことは、遺伝子工学や医療技術で最先端を走っていることと対照的である。


選挙で見ると、伝統的な家族の価値観を強調したレーガン大統領(共)がユタ州で70%以上の支持を集めたのを始め、2012年の大統領選挙でもロムニー候補(末日聖徒イエス・キリスト教徒)が70%以上の支持を集めるなど、大統領選挙では最終的勝敗に関係なく共和党候補を支持している。2001年~2009年のブッシュ政権時には、常に全米一高い支持率を記録した。全米的に保守回帰となった2010年の中間選挙では、連邦議員選挙、州レベル選挙とも一層共和党優位に傾いた。2016年の大統領選挙では、トランプ候補が宗教の自由を侵害する可能性があるとして支持を見送る有権者もいたが、最終的にはトランプ候補が46%の得票で勝利した。


共和党の優位の陰で左右勢力が対立する局面がみられることも事実である。例えば、ゲーリー・ハーバート(Gary Herbert)州知事は、知事時代に共和党の知事ながら中道派で課題によってはリベラルな価値観を代表し、ジョン・ハンツマン(Jon Huntsman)州知事も知事時代きわめて民主党寄りのスタンスに終始し、さらに民主党のオバマ政権で中国大使を務めた。これは、長期にわたって安定多数を享受する共和党が一党で州民の多種多様な要求に応えようとしたために生じた現象との見方もある。


現在、知事を務めるスペンサー・コックス知事(共)は、これまでにトランプ大統領には反対の姿勢を見せてきたが、2024年大統領選ではトランプ大統領への支持に方向転換した。


なお、原理主義末日聖徒による一夫多妻の慣習は、1896年にユタ州が立州する条件として同慣習を放棄して以来、州法で禁じられている(宗教的信条としては認めるが実施は禁止)。


(2) 連邦議員

ア 連邦上院議員(2議席)

共和党の2議席独占が続いている。総じて現職が有利であるが、2010年の選挙では、強行保守のティーパーティー運動で浮上したマイク・リー候補が当時現職のボブ・ベネット(Bob Bennett)議員(共)を予備選挙で敗退させた。2013年10月にはマイク・リー議員(共)は、政府の機関閉鎖に大きく関与したとして州内外から非難を浴びていたが、 その後大胆な税制改革案などを提案し支持率の回復に努め、2016年には再選された。2018年の選挙では、オリン・ハッチ議員(共)が任期満了後の引退を表明し、その後任としてミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(共)が圧倒的な勝利を収めた。2022年の選挙では、現職マイク・リー議員(共)が再選した。2024年の選挙では、ロムニー議員が2期目再選不出馬を表明し、ユタ3区連邦下院のジョン・カーティス議員(共)が上院選への出馬を表明し勝利した。


【連邦上院議員】
マイク・リー (Mike Lee) (共) 2028年改選
ジョン・カーティス (John Curtis) (共) 2030年改選

イ 連邦下院議員(4議席)

1980年以来共和党の3議席独占が続いていたが、1986年、1990年に民主党がそれぞれ1議席獲得する等、極めて保守色の濃い同州において民主党が善戦した時期もあった。1996年の選挙で共和党が全ての議席を占め、2000年に民主党が1議席奪回して以来、共和党2議席、民主党1議席の態勢が続いていた。


2012年の選挙から同州における連邦下院議席が一つ増えて4議席となり、共和党3議席、民主党1議席との結果となった。第4区は激戦の末に民主党のジム・マセソン候補が勝利した。2014年11月の選挙でも第4区が激戦区になると見られていたが、マセソン議員が出馬せず、結果として前回768票差で敗れた共和党のミア・ラブ候補が予想通りに当選した。ラブ議員は全米で初の共和党黒人女性連邦下院議員であった。2016年の選挙では現職がいずれも勝利し、引き続き共和党が4議席を独占した。


2018年の選挙では、ラブ議員の議席獲得を目指し、ベン・マクアダムス・ソルトレイク郡長(民)が出馬を表明。接戦の末、マクアダムス候補が僅差で勝利した。しかし、2020年の選挙にてマクアダムス議員の議席獲得を目指し出馬した新人候補で共和党のバーゲス・オーウェンズ候補が接戦の末に勝利しため、現在共和党が全4議席を占めている。第4区は、民主党および共和党が交互で議席を獲得する激戦区となっていたが、2022年の選挙でオーウェンズ議員が再選を果たしたため、これまでの民主党および共和党による交互での議席獲得は絶たれた。


【連邦下院議員】
第1区 ブレイク・ムーア(Blake Moore) (共)
第2区 クリス・スチュアート(Chris Stewart) (共)
第3区 マイク・ケネディ(Mike Kennedys) (共)
第4区 バーゲス・オーウェンズ(Burgess Owens) (共)

(3) 州議会と州政府

ア 州議会

州議会は上院(定員29名)と下院(定員75名)より成る。州議会では伝統的に共和党優勢であり、全米的に保守旋風が吹いた2010年、2012年の選挙で、共和党が議席を伸ばし、2014年、2016年の選挙でも同議席を維持した。しかし、2018年の選挙では上院、下院共に共和党議員数が1名減となったが、2022年の選挙では下院にて共和党が議席を伸ばし、上下両院共に共和党が圧倒的に優勢となっている。


【州上院】
民主党 6名
共和党 23名
29名

【州下院】
民主党 14名
共和党 61名
75名

イ 州政府の主要政策と課題

ユタ州は、失業率が全米平均と比べてかなり低い水準(2024年10 月3.5%、全国平均4.1%)で推移するなど、2000年代半ば以降の全国的な不況の影響は比較的少なく、またその保守的傾向から堅実な財政運営に努め、他州と比べると州財政は豊かである。しかしながら、人口増に伴う高速道路の渋滞問題や大気汚染の問題等、州の発展に伴う新たな問題も顕在化してきている。


ユタ州では規律を重んじる末日聖徒イエス・キリスト教会(通称:モルモン教)モルモン教の影響もあり、重犯罪、麻薬といった深刻な社会問題は他州に比較して少ない。むしろ保守的な道徳観から飲酒、妊娠中絶、同性婚に対して過度な警戒心があり、こうした問題を公に議論したがらない傾向があった。しかし、ハンツマン知事以降は、州議会でもこうした問題を取り上げるようになり、飲酒緩和の法律などが成立している。


また近年では、2013年同州での同性婚禁止法について州連邦地裁が違憲との判決を下し、ユタ州当局が連邦高等裁判所に控訴するも、翌年、連邦裁はユタ州の同性婚の禁止を違憲であるとし、また米国最高裁判所も同判決に介入しない旨通達したことで、同州で同性婚が合憲となった。


ウ 州知事選挙

州知事はかつて20年間民主党の手にあったが、オープンシートとなった1984年の選挙で共和党のバンガーター候補が当選して以来、共和党出身の知事が続いている。2005年からは、実業家のハンツマン知事が経営感覚を政治に活かして、法人税の減税、食品税の撤廃などに取り組み、クリーンエネルギー推進に力を入れると同時に、核廃棄物の州内持ち込み問題では、州民と一体となって強硬な反対姿勢を見せるなど、イデオロギーに捉われない柔軟な施政を行った。2008年の選挙で高い支持率で再選したが、2009年8月、オバマ大統領(民)より中国大使に任命された。その後、ハーバート副知事が知事に昇任、2010年の信任選挙及び2012年、2016年の選挙で勝利した。ハーバート知事は2020年で任期満了のため、2020年ユタ州知事選ではコックス副知事(共)およびハンツマン元知事(共)が出馬し、接戦の末にコックス副知事が勝利した。


【ユタ州公選職】
知事(Governor) スペンサー・コックス (Spencer J. Cox) (共)
副知事(Lt. Governor) ディドゥレ・ヘンダーソン (Deidre Henderson) (共)
州務長官(Sec. of State) ポストなし
州司法長官(Attorney General) ショーン・レイズ (Sean Reyes) (共)
州財務長官 (Treasurer) マーロ・オークス(Marlo Oaks) (共)

エ その他

主要都市の市長は次の通り。


【主要都市の市長】
ソルトレイクシティ市(州都) エリン・メンデンホール(Erin Mendenhall) 2027年改選

3 経済及び産業

(1)経済概況

ユタ州の主要産業は、鉱業、農業、運輸・ハイテク産業及び行政サービスである。2024年のユタ州の総生産は2,988億ドル。同州のGDPは全米29位である。


(2)主要産業

ア 鉱業

ユタ州の主な鉱物資源は、銅、金、モリブデン及びマグネシウムである。ユタ州は豊富な鉱物資源に恵まれており、ソルトレイクシティ市周辺には、金・銀・銅・鉛などの鉱床があり、ゴールドラッシュ以降、ユタ州は鉱山開発に伴って発展した。特に銅鉱石はユタ州の鉱物生産の中でも最も多い生産高を有している。ユタ州東部では、石油生産が中心になっており、ユタ州中心部では、石炭産出が鉱業活動のほとんどを占めている。


イ 農業

主な農作物は、干し草、トウモロコシ、大麦及び小麦であるが、農業分野での収入は、その殆どが食肉(羊、牛)、酪農等の畜産業からもたらされている。


ウ ハイテク産業、製造業

カルフォルニア州のシリコン・バレーに本拠地を持つハイテク企業の中には、同地での人件費上昇と物価高等の要因から、物価が安く広大な土地のあるユタ州に移転する企業が増えている。


エ 航空宇宙産業

ユタ州は、航空宇宙研究、ミサイルや宇宙関連航空機の生産、コンピュータのハードウェアやソフトウェア、電子システム、関連部品の生産の中心となっている。


オ 観光業

ユタ州は州内に5カ所の国立公園、8カ所の国定公園、その他国立森林、国立レクリエーションエリアを持ち、夏はキャンプ、釣り、ハイキング等の野外活動、冬は全米を代表するスキー場でのスキーとアウトドア・レクリエーションが魅力である。2002年には冬季オリンピックがソルトレイクシティ市で開催され、2034年に2回目の冬季オリンピック開催が決定している。


4 文化

(1) 教育

ユタ州には約945校の公立小中高等学校(K-12)があり、607万人以上の生徒が学んでいる。また、320の地方教育委員会(Local Education Authority)がある。義務教育年齢は、9月1日までに6歳となる子供から17歳未満、公費で教育が受けられる期間は、5 歳から18歳までとなっている。2023年の高校卒業率は84%と高いレベルにある。


高等教育機関としては、ユタ大学をはじめ州立の4年制大学等の高等教育機関が6校、ブリガム・ヤング大学等私立の高等教育機関が3校ある。大学レベルの日本語教育に関しては、ユタ大学、ユタ州立大学、ブリガム・ヤング大学等で実施されている。

(2) 文化

末日聖徒イエスキリスト教徒(通称:モルモン教徒)が約6割を占める同州において、同教会は文化的にも重要な役割を果たしてきた。現在、同州に根づいている踊りや演劇は元来、青年の教会活動の一環として生まれたものである。特にタバナクル聖歌隊は有名であり、大聖堂のオルガン演奏とともに人々を魅了している。


世界3大映画祭(カンヌ、ヴェネチア、ベルリン)にならび、インディペンデント映画祭としてその名を馳せているサンダンス映画祭が、毎年1月末にパークシティ、ソルトレイクシティとサンダンス・レゾートで開催されている。同映画祭は、ユタ住民の俳優のロバート・レッドフォードが創設したサンダンス・インスティチュートが運営していることでも広く知られている。


この他Utah Symphony、Utah Opera、Ballet West、Ririe-Woodbury Dance Company等が活動している。演劇に関しては、Pioneer Theatre Companyをはじめいくつかの演劇グループがある他、州南部のシーダー市に毎年シェイクスピア・フェスティバルが開催される。ユタ州内には多数の美術館・博物館があり、自然史・開拓史から現代芸術にいたるまで様々な展示が行われている。


5 治安情勢

ユタ州における2023年の主な犯罪の発生件数及び対前年比犯罪発生率は以下のとおり。


  2022年(件数) 2023年(件数) 前年比
殺人 96 79 -17.7%
強姦 2,068 1,837 -11.2%
強盗 995 897 -9.8%
暴行 5,032 5,007 -0.5%
窃盗 50,179 44,225 -11.9%
自動車盗 7,028 5,0004 -28.8%
(出典:FBI犯罪統計)

6 日本との関係

(1) ユタ州における日系人の歴史

ユタ州に最初の足跡を記したのは、岩倉具視を団長とする遣米欧使節団であった。準州時代の1871年、サンフランシスコから大陸横断鉄道で東海岸に向かう道中、大雪のためソルトレイクシティ市に回り、そこで20日間逗留した。このユタ訪問は予定外のものであったが、使節団はここで末日聖徒イエスキリスト教徒(通称:モルモン教)との出会いに始まり、外科手術の見学などを行っている。しかしこれはあくまでも州を通過したに過ぎず、日本人の移住が始まったのは1890年前後で本格化したのは1903年頃からであるが、州の北端ガーランド市において砂糖大根栽培に従事し、その後、鉄道工夫、農園労働者、あるいは鉱山・銅山人夫として入り始めた。


1910年代から1920年代は日本人が定着していく時期で、単純労働から事業農業あるいは商業に転じていく者、鉄道や鉱山の現場監督として人の上に立つ者が増え、そうでない者は帰国あるいは他の土地に転住し、単純労働者の数は減っていった。


日米開戦はユタ州に大きな変化をもたらした。1942年2月に出された大統領令9066号によって、西海岸の3州及びアリゾナ州南部に住む日系人約 12万人が内陸に設けられた強制収容所に送られた。日系人の内陸転住計画による受入れを打診された中西部諸州は、アイダホ州のように「軍の監視下における収容所にのみ受け入れる」といった強硬な州が大半であったが、過去に迫害された歴史を有する末日聖徒イエスキリスト教徒(通称:モルモン教徒)は、早くから親日的であったこともあり、日系人に対して寛大であった。このため、開戦前後から日系人収容所の建設完成に要した7ヶ月間に密かに移住してきたもの、あるいはいったん収容所送りになっても、米国への忠誠心が認められて自由を得た者が、続々とユタ州に集まってきた。彼らは、商業、農業、缶詰工場、家庭労働者として就労したため、戦前は凋落の町に等しかった日系人街は活況を呈した。しかし住民レベルの反応とは別に、ユタ州知事は日系人の外出禁止、預金凍結措置を採った。さらにセントラル・ユタ日系人収容所(通称:トパーズ収容所)が完成すると、西部州から送られてきた日系人約1万人が収容された。全米日系市民協会本部やその他日系人団体の事務所も同市に移され、戦時下在米日本人社会の中心ともなった。


しかし1944年12月の「退去命令解除」(西部海岸州からの退去命令の撤廃)と、1945年8月の終戦に伴う「帰還命令」(収容所から元の住所への帰還を命じたもの)が出ると、収容所から解放された人達は、一時はユタ州に留まったが、生活の目処が立つとその多くは西海岸の古巣に帰って行った。こうしてユタ州の日本人社会は一時の繁栄を失った。しかし宗教的気風の中住み心地がよいこと、子女の結婚などの関係でそのまま残っている家族などで、戦前2千人強であったユタ州の日本人人口は、戦後4,400人強に増加するなどユタ州への移住日系人は太平洋戦争時の緊張期を経て定着を続けたことを示している。2007年、日系人が心の拠り所としたソルトレイクシティ市街の一角の道の名称がジャパン・タウン通りに変更された。


(2)文化交流

ブリガム・ヤング大学やユタ大学、ウェバー州立大学を中心に、日本関係の研究が行われ日本語学習熱も高い。 末日聖徒イエスキリスト教(通称:モルモン教)宣教師として訪日経験を有する者も多く、その多くは帰国後も日本に関心を有している。


1994年、ソルトレイク市にユタ州日米協会が発足したが、現在は休会中である。また、2007年8月にユタ大学に日本人会が発足し、各界で活躍する日系人を中心に積極的な活動を行っている。毎年4月に開催される「日本祭り」では、日系人の歴史を紹介する場所を設けるとともに、日本の伝統文化やポップ・カルチャーに関心を持つ市民が大勢参加し、現地の幅広い世代に歓迎される行事のひとつとなっている。


(3)学術関係

ユタ州からはJETプログラムにより、数名の参加者を送り出している。


(4)投資・貿易

ユタ州に進出している日系企業は28社である(2024年1月現在)。ユタ州政府は、経済多様化政策を進める中、国際貿易にも力を入れ、国際事業開発計画(International Business Development Program)を進めてきており、外国企業の誘致、自州製品の市場開発等を行ってきている。ユタ州の対日輸出額(2023年)は約8億2,100万ドルで、日本はユタ州の第5番目の相手国である。ちなみに第1からの輸出相手国及び地域は英国、ついでカナダ、メキシコ、中国となっている。


(5)要人往来

ア 訪米

  • 2002年 2月 有賀正松本市長(ソルトレイクシティ市)
  • 2008年 7月 菅谷昭松本市長(ソルトレイクシティ市)
  • 2008年10月 森真各務原市長(レイクパウエル市)
  • 2013年 7月 菅谷昭松本市長(ソルトレイクシティ市)
  • 2013年 8月 上村清隆湯沢町長(マグナ町)
  • 2015年 3月 佐々江駐米大使(ソルトレイクシティ市)
  • 2019年 7月 薗浦総理大臣補佐官、辻外務大臣政務官、杉山駐米大使(ソルトレイクシティ市)
  • 2019年 8月 高木衆議院原子力問題調査特別委員会委員長一向(ソルトレイクシティ市、クレイグ市)

イ 訪日

  • 2007年 4月 ジェニファー・シーリグ・ユタ州下院議員(東京都、茨城県、愛知県、京都府)
  • 2008年 9月 ラルフ・ベッカー・ソルトレイク市長(松本市)
  • 2012年 7月 ピーター・クルーン・ソルトレイク郡長(湯沢町)
  • 2015年 4月 貿易ミッション訪日
  • 2019年 9月 ゲーリー・ハーバート知事(東京)
  • 2024年 9月 スペンサー・コックス知事(東京)

(6) 在留邦人及び日系人

ユタ州に在留する邦人の数は約3,000人(2024年10月現在)。日系人(2000年の国勢調査に対し「日本人」または「日本人との混血」と回答した人)の数は約1万人となっている。一般的に邦人社会と現地社会との関係は良好な状態に保たれている。また、ソルトレイクシティ市近郊のドレイパー市に在外教育施設としてユタ日本語補習校がある。


(7) 姉妹州・都市関係

ユタ州では、以下の都市と姉妹都市関係を締結しており、活発な姉妹都市交流を行っている。


ユタ州の都市 日本の都市  姉妹都市締結年月日
ソルトレイクシティ市 松本市(長野県) 1958年11月29日
ソルトレイク郡マグナ地区 湯沢町(新潟県) 2015年7月8日