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ワイオミング州事情(2015年3月)

1 概観

(1)歴史・沿革
(2)地誌

2 政治

(1)政治情勢概況
(2)連邦議員
(3)州議会と州政府

3 経済及び産業

(1)経済概況
(2)主要産業

4文化

(1)教育
(2)文化

5治安情勢

6日本との関係

(1)ワイオミング州における日系人の歴史
(2)文化交流
(3)学術関係
(4)投資・貿易
(5)要人往来
(6)在留邦人等



1 概観

(1) 歴史・沿革

  ワイオミングという名称は,アメリカン・インディアンの言葉から取ったもので,「大平原」を意味する。往時,この地は10余部族のアメリカン・インディアンが居住する大狩猟地であったが,現在ではウィンド・リバー山麓の保留区にその子孫約3万5千人余りが残っているに過ぎない。白人がワイオミングに足を踏み入れたのは,1807年イエローストーン地区を発見したジョーン・コルターが最初であったといわれている。1850年代には,少数のモルモン教徒が州の西南部に定着し,続いて1860年代から1870年代にかけて,金鉱の発見や鉄道の建設に伴って,多数の開拓者や労働者が流入した。ことに,鉄道建設労働者として多くの中国人が入って来たが,後に彼等は炭鉱地域に定着した。さらに,1910年代に入り,欧州からの移民が続々定着するようになった。そのうち英国人は主として農業に,スウェーデン及びその他の北欧系人種は主に木材伐採に,イタリア人やギリシャ人は主として鉱山労働に,メキシコ人,ロシア人等は砂糖大根の栽培に従事した。ワイオミング準州が設立されたのは1868年であり,その後1890年7月10日にアイダホ州より一週間遅れて44番目の州として連邦に加えられた。同州は一名「平等州」として知られ,他の連邦諸州に比べて51年も先立って,1869年に婦人に参政権を与えたことで有名である。

(2) 地誌

ア 地理

 ワイオミング州は,面積約25万1千平方キロメートル(日本の総面積の約7割)の方形をした州で,全国で9番目に大きい州である(州都はシャイアン)。ロッキー山脈が州の中央部を広く南東から北西に走り,西部には鋸の歯のような高山がそびえ立ち,東部は大平原地帯となっている。平原地帯ではセージブラッシュの生えた砂漠や不毛地も相当あるが,それ以外の大草原地帯は放牧に適している。山岳地帯には樹木が繁茂しており,また,多数の湖沼が散在し,景勝に富んでいる。就中,州の西北端に位置するイエローストーン国立公園は世界で初めて国立公園として登録された場所であり,国内でも有名な観光地である。

 州面積の48%が連邦政府の所有地となっており,その他42%は私有地,6%は州政府所有地,4%がアメリカ・インディアン居留地となっている。

イ 気候

 気候は,少雨多照で概ね温暖であるが,冬季の寒さと夏季の暑さは相当厳しい。しかし,空気が乾燥しているのでそれほど辛くは感じない。降雨量は極めて少なく,全米中最も乾燥した州の1つである。州都シャイアンの年間平均気温は,華氏45.0度(摂氏約7度),年間降水量は15.4インチ(約39cm)である。平均風速は時速12.9マイルで全米一位となっている。

ウ 人口

 2014年の国勢調査推定人口によると,ワイオミング州の人口は約58万人で,最新の人口構成(2013年の国勢調査による)は白人84.1%,ヒスパニック系9.7%,アフリカ系1.7%,アメリカ・インディアン2.6%,アジア系0.9%,である。

 ワイオミング州の主要都市の人口(2013年国勢調査推定)は以下の通りである。

シャイアン市(州都)        約6.2万人
キャスパー市(州第2の都市)    約6.0万人

(4)その他
・州花  ヤナギ・トウワタ (Indian paintbrush)
・州鳥  ニシマキバ・ドリ (Western Meadowlark)
・州木  ハコ・ヤナギ (Cotton wood)
・州の動物  バイソン (Bison)



2 政治

(1)政治情勢概況

  ワイオミング州は,潤沢な鉱物,観光,土地資源に恵まれ,政府による制限を極端に嫌う自主独立の気風が強い。このため伝統的に共和党が強く,同党が長年にわたって連邦上下院の議席を独占し,州上下両院でも圧倒的多数の議席を占めてきた。しかし州知事だけは例外で,1975年以降は,民主党知事3人,共和党知事2人がほぼ交代する形で就任している。その理由は,州政は州民の生活に直接関与するものであり,イデオロギーを超えた個別の政策が選挙民に強く訴えるためと思われる。

 総じて州財政は潤っている。世界的不況の中で天然資源の需要が減ることもあったが,赤字財政に悩む他州を尻目に,黒字財政で独自の路線を歩んでいる。ただ,州の最重要産業である石炭産業が,環境対策から生まれたクリーンエネルギー政策の挑戦を受けるようになり,州はカーボンの液化処理技術,及び地下埋蔵技術の開発に取り組み始めた。天然資源を背景に独自路線をすすむワイオミング州は,今後も多少の変動があるとしても,共和党支配の構図は容易に変わらないと思われる。

(2) 連邦議員

ア 連邦上院議員(2議席)
2議席とも共和党が独占している。2008年の選挙では,マイク・エンジ議員の改選選挙と,任期途中で死去したクレイグ・トーマス議員の後任として2007年に知事の指名で議員となったジョン・バラッソ議員の信任選挙の2つが行われたが,現職の両共和党議員が再選された。2014年の中間選挙では,当初,ディック・チェイニー元副大統領の長女であるリズ・チェイニー候補が出馬表明し,全国で注目を浴びたが,その後チェイニー候補が家族の健康上の問題を理由に辞退した後には,有力な候補は立たず,マイク・エンジ議員が圧倒的な支持力で再選を果たした。

【連邦上院議員】

マイク・エンジ (Mike Enzi) (共) 2020年改選
ジョン・バラッソ (John Barrasso) (共) 2018年改選

イ 連邦下院議員(1議席)
ワイオミング州の連邦下院議員の議席定数は1議席であるところ,現在は共和党が議席を占めている。1995年から7期14年間,バーバラ・キュービン(Barbara Cubin)共和党議員が議席を保っていたが,同議員の議員活動に「緊張感がない」との批判が出始め,2006年の選挙では多くの共和党票が民主党候補に回った。これに鑑みて共和党は2008年の選挙時,キュービン議員に代えてシンティア・ラミス候補を擁立すると,選挙民は共和党に立ち返ってラミス候補を当選させ,2010年,2012年,2014年の改選選挙では民主党から有力な対立候補が立たず,同議員が再選された。

【連邦下院議員】

シンティア・ラミス (Cynthia Lummis) (共) 2016年改選

3 州議会と州政府

(1) 州議会

 州議会は上院(定員30名)と下院(定員60名)より成る。党派別勢力に近年大きな変化はないが,2008年の選挙で下院の2議席が民主党に移ったものの,2010年,2012年,2014年の選挙では共和党が圧勝した。

  民主党 共和党
州上院 4名 26名 30名
州下院 9名 51名 60名

 

(2) 州政府の主要政策と課題

 過去20年間を見ると,1990年代,米国経済が好調であったときに,ワイオミング州経済は停滞し,人口は流出し,繁栄から取り残されているとの焦燥感があった。1994年の選挙で民主党知事に取って代わった共和党のジム・ゲリンジャー(Jim Geringer)州知事は,1997年に経済開発と観光の役割を担う準政府機関の「ビジネス評議会」を設立して総合的な経済開発計画の策定に取り組んだが,それも州民の期待に十分添うものでなく,次第に州全体に変化を望む声が高まった。2002年の選挙で民主党のフルデンサール候補が,高等教育の充実化,潤沢な財産を州の活性化に役立てることを提言すると,州民は再び知事ポストを民主党に委ねたが,2012年の選挙では,知事ポストから州議会上下院まで,共和党に圧倒的支持を与え,2014年の選挙でも共和党への支持は継続した。

 同州にはそれなりの問題はあるにしても,まず財政が健全であることから緊急課題と呼べるほど深刻な問題はないと言えよう。

(3) 州知事選挙

 2003年から2期,8年間勤めたフルデンサール知事(民)に代わって,2010年の選挙では,全米的に旋風を巻き起こしたティーパーティ運動の後押しを受けたマット・ミード知事(共)が当選した。また,2014年の選挙でも再選に向け順調な滑り出しを見せて,他の候補者に対し優位な位置を取ったまま再選を果たした。

【ワイオミング州公選職】

知事 (Governor)

マット・ミード (Matt Mead)

副知事 (Lt. Governor)

ポストなし  

州務長官 (Sec. of State)

エド・マーレー (Ed Murray)

司法長官 (Attorney General)

ピーター・マイケル(Peter Michael)

財務長官 (Treasurer)

マーク・ゴードン(Mark Gordon)

 (4) その他

主要都市の市長は次の通り。

シャイアン市(州都)  リチャード・ケイセン (Richard Kaysen) (共)   2016年改選 
キャスパー市      シャーン・ジョンソン (Shawn Johnson)  (共)   2018年改選*
(*市議の中から互選形式で選ぶ。)



3 経済及び産業

(1) 経済概況

 ワイオミング州の主要な経済構成要素は農業,鉱業及び観光事業である。同州には,石炭をはじめとする豊かな天然資源が存在し,天然資源と鉱業分野での雇用率は全米第1位である。連邦政府経済分析局の統計によると,2013年のワイオミング州の総生産は約408億ドル(前年比7.6%増)であった。一人当たりの個人所得では,52,826ドル(2013年,全米第8位)となっている。

 また,2014年12月のワイオミング州の失業率は,約4.2%と全米平均の5.6%よりもはるかに低く,鉱業及びエネルギー開発は引き続き活発ではある。また,非農業雇用者総数は前年同時期の28万7千人から29万7千人(3.4%増)となった。

 国際貿易においては,2014年,総輸出額は約17.5億ドル,主要輸出国はカナダ,ブラジル,インドネシア,日本,チリの順となっている。(日本は4位,後述6の(4)参照)

(2) 主要産業

ア 農業
ワイオミング州における農牧畜産業は,州の重要な産業のひとつである。主な農産品は家畜(牛),干し草,テンサイ,穀物(小麦・大麦),羊毛である。また,ワイオミング州の家畜の総数は人口よりも多い。
同州の降水量は非常に少ないため,乾燥に強い作物を栽培したり,広い土地を利用して放牧が営まれている。一農家当たりの農地面積は,3,780エーカーで全米第1位の規模である。

イ 鉱業・エネルギー資源
ワイオミング州で最も重要な産業は鉱業であり,州内総生産の約4分の1を占めている。主な鉱物資源は,石油,石炭,天然ガスである。2014年9月には年間石炭産出量が全米1位,石油産出量が全米8位,天然ガス産出量が全米6位を記録した。こうした鉱業の中でも,ワイオミング州を特徴付けているのは石炭産業であるが,ワイオミング産の石炭は燃焼時に汚染物質の排出が少ない「天然クリーンコール」として好評を得てきた。しかし近年の地球温暖化問題への関心の高まりを考慮して,ワイオミング州は,さらにクリーンな石炭を開発してこの分野において主指導的役割を果たすことを目指している。

ウ 観光業
米国初の国立公園イエローストーンや隣接するグランド・ティトン国立公園を擁する同州にとって,観光やレクリエーション活動は重要な収入源となっている。毎年600万人を超す旅行者が観光地へ訪れ,イエローストーン国立公園の入場者も2013年は,約350万人を越え(前年比10%増)順調に伸びている。 
ワイオミング州の国立公園における観光は,夏期は自然の景観,野生動物ウォッチング,釣り,狩猟,キャンピング等,冬期はスキー・スノーボードなどが中心である。特にイエローストーン及びグランド・ティトンの両国立公園では,冬期のスノーモービルによる森林ツアーが盛んで,観光収入の大きな部分を占めている。しかし排ガスによる空気汚染,燃料による水汚染が動植物に与える影響,また,一日中鳴り響く騒音による野生動物に与える影響等,スノーモービルが環境に与える影響を配慮して,一日当たりの運転数に制限が設けられるようになった。


エ その他

  その他のワイオミング州の産業としては,鉄道,パイプラインに従事する者の割合も全米の中でも高い。また,近年ではスマートグリッドプロジェクトや風力発電プロジェクトの競争が活発となっており,同州の設備投資金額1ドルあたりの生産性は高まっている。州都シャイアン市周辺は,広い空間があり,高地で2つのインターステイト・ハイウエイと2つの鉄道が通っている有利な立地条件から,宇宙基地(Spaceport)誘致に積極的である。しかし,他州も多額の予算を組んで誘致に乗り出しており,これらの州との競争は免れない。

  ワイオミング州で特筆すべき問題に,灰色狼(以下「狼」と略称)の保護・処遇がある。その昔,米国のほぼ全域に生息していた狼は,20世紀にはごく限られた地域を除いて,姿を消した。しかし草食動物の過剰な繁殖を抑制するなど,狼の存在が健全な生態系の維持に必要であるとの認識から,1973年制定の野生保護法で絶滅種に指定されると,狼はその生息数を徐々に回復してきた。さらに1995-1996年にイエローストーン国立公園は,カナダから31頭の狼を再導入すると,優れた繁殖力を有する狼は急速に増殖し,生態系維持に最適数の300匹をはるかに超える数となった。生息地域も当初計画の地域を超えて広がり,保護の必要がないまでに増え,2012年9月末には絶滅危惧種の指定を解除された。また,農村地帯に出没する狼による家畜の被害,加えて観光業への影響がでるなどの問題を引き起こした。そのため畜産業者,観光業者は狼の扱いに関する何らかの規制の導入を強く求めている。ワイオミング州議会では,狼の恒久的生息を保証すると同時に,過剰繁殖を予防するのに有効な狼管理規定の導入を検討中である。



4 文化

(1) 教育

 ワイオミング州には約367校の公立小中高等学校があり,約9万3千人の生徒が学んでいる。公立校における生徒の人種別構成は,ヨーロッパ系が79.0 %,ヒスパニック系が13.5%,アフリカ系が1.1%,アジア太平洋系が1.0%,アメリカ/アラスカ先住民が3.3%となっている。義務教育年齢は5歳~18歳までで,高校の卒業率は2013-14年に78.6%と近年連続して低下を続けており,全米の平均値80%を切ったことで州の教育関係者は危機感を募らせている。
高等教育機関としては,ワイオミング大学が唯一の州立4年制高等教育機関であり,フェニックス大学シャイアン校等私立の高等教育機関が2校ある。現在,ごく一部の高校で日本語授業が行われている他,大学レベルの日本語教育は,ワイオミング大学にて実施されている。また,州内大学への進学率を高めるため,2006年秋より州政府出資によるハサウエイ奨学金制度が導入された。

(2) 文化

   州内には,イエロー・ストーン国立公園,グランド・ティトン国立公園があり,大自然に囲まれた環境の中で,住民の野外活動志向が強く,国立公園を中心とした環境保護運動も盛んである。また,大西部時代の開拓者精神も,カウボーイ文化等として,根強く社会・文化の中に残っており,この風土を反映した博物館も多い。代表的なものとして,州都シャイアンのFrontier Days Old West Museum, Grand Encampment Museum, Saratoga Museum, Sweetwater County History Museum等がある。



5 治安情勢

 2014年FBI発表の犯罪統計によれば,2013年にワイオミング州で発生した犯罪総件数は14,004件で,前年より2.6%減少している。なお,ワイオミング州における主な犯罪の発生件数及び対前年比犯罪発症率は以下のとおり。

犯罪種別

2012年(件数)

2012年(件数)

前年比

殺人

強姦

強盗

加重暴行

住居侵入窃盗

その他の窃盗

自動車盗

14

154

61

932

2,125

10,513

584

17

187

75

916

1,955

10,275

578

21.4%

18.4%

23.0%

-1.7%

-8.0%

-2.3%

-1.0%

(資料出典:FBI犯罪統計)

(注:強姦の定義は、2012年までは被害者女性の意に反し強要された性行為であったが、2013年により広範囲なものに変更された。)

6 日本との関係

(1) ワイオミング州における日系人の歴史

 ユニオン・パシフィック鉄道等の建設工事に中国人に代わる労働力として,1900年前後より,ワイオミング州に日本人が入植し始め,その後, 鉱山労働に取って代わり,1910年頃には,ロック・スプリングス市を中心に3,000人以上の日本人炭坑夫がいたと推測されている。その優秀性が高く評価され,多くの日本人坑夫が,現場監督として抜擢されたが,1930年頃より,老齢のために引退したり,帰国が相次ぎ,日米開戦までには極めて少数となっていった。

 真珠湾攻撃の後,ルーズベルト大統領の行政命令9066号の発令により,ワイオミング州にも,州北部パウエル市とコディ市の間にハート・マウンテン(Heart Mountain)日系人強制収容所が建設された。主に西部からの日系人が強制収容され,1942年10月の時点では,1万人以上の日系人がいたとされる。同収容所において,ビル・ホソカワ氏(元デンバー日本国名誉総領事)が新聞紙「The Heart Mountain Sentinel」を日系人向けに発行していた。また,ノーマン・ミネタ元運輸長官も,同収容所の元収容者である。 戦後は,何人かが収容所周辺に在留し,農業等に従事したが,ほとんどの日系人はカリフォルニア州などの元の住居近くに戻っていった。

(2) 文化交流

 ワイオミング大学では1990年から6年間,日本からの客員教授招聘等を実施し,徐々にではあるが文化・学術交流が行われてきた。2005年12月にはワイオミング日米協会が設立され,日本映画の上映や日本祭りの開催など活発な活動を行っている。又,キャスパー市では毎年秋に開催される「ジャパン・アーツ・デー」において,和太鼓等の邦楽演奏等が行われ,市民に好評である。

(3) 学術関係

 ワイオミング州からはJETプログラムにより,毎年数名の参加者を送り出している。

(4) 投資・貿易

 日本はワイオミング州にとって4番目の輸出相手国であり,対日輸出額は2014年, 6,800万ドルとなっている。対日貿易取引における輸出品の約90%が化学製品である。  

(5) 要人往来

ア 訪日

・2006年 8月: 富士吉田市(マーク・バロン・ジャクソン市長)

(6) 在留邦人等

ア 在留邦人及び日系人

  ワイオミング州に在留する邦人の数は全体で148人(2013年10月,当館の在留届に基づく推定人数)。その内38名はシャイアン市にして居住している。日系人(2010年の国勢調査に対し「日本人」または「日本人との混血」と回答した人)の数は約1,000人となっている。一般的に邦人社会と現地社会との関係は良好な状態に保たれている。